客に対する用心は態度に出すな

「お客さまは神さまです」といっても、相対する客が全部そうであると信じるというわけではない。これは、いわば表現であり、相手に快感を与えるための一つの方策としてなのである。といって、それは決して付焼刃的なものであってはならないのは勿論だが。

客はいきものであり、これはある意味では動物をとりあつかうことと似ている。動物は時に、あばれたり、人間をおそったりもする。また、作物をあらしたりして、人間に被害も与える。そこで、これらの動物を一定の囲いの中に入れて飼育することになる。

ところで、その囲いの仕方だが、ある人は有刺鉄線を用いて囲うのだ。これは、動物達に痛みを与え、その恐れによって、外へ出さないよう統制する方法である。しかし、この方法では、動物たちと仲良くなるわけには行かない。

一方、最近では、自然動物園などというものが方々に作られるようになった。これは、崖などをうまく設計して、まるで囲いがないような錯覚を起こさせるよう自然な感じでしかも観客の人間たちとは、うまく隔てられているのである。

接客に際しては、勿論、客の値踏みと観察は必要である。しかし、これは基本的には、客にさとられてはならぬのである。そして、目に見えぬよう、しかも用心と配慮をおこたらず、接しなければいけない。

そして、そのためには、「中にはクズも混じるけれど、結局は人々は皆自分に利益をもたらしてくれる神さまなのだ」というように、人間を、そして人生自身を肯定的に受け入れるという基本的な心的態度が必要なのである。

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Tags: 無能唱元

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